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第20回 アフリカの街を 地べたから 見上げる

タイトル
世界の各地域の自然と文化の紹介や環境問題に関するレポート
執筆者
 
地域
京都市  
テーマ
自然 暮らし 環境問題  
更新日
2014年05月29日

執筆者紹介

清水貴夫 (しみず・たかお) プロジェクト研究員


専門は文化人類学、アフリカ地域研究。
研究プロジェクト「砂漠化をめぐる風と人と土」プロジェク研究員。
2012年から地球研に在籍。

第20回 アフリカの街を 地べたから 見上げる


私の調査地は西アフリカの内陸国ブルキナファソの首都ワガドゥグ市だ。旧フランス領のこの地域では人びとはそれぞれの民族の言語を使いながらも、フランス語がよく通じる。しかし、ここに通いはじめた当初、旅行者だったりNGO職員だったりした私はフランス語の「フ」の字も知らず、最初の数年間は英語で押しとおした。

 

ワガドゥグのラスタマン
 

こんな面倒くさい貧乏外国人を相手にしてくれる人などそれほどおらず、たまに話し相手になってくれたのが、自らを「ラスタマン」と称する民芸品売りの人びとだった。彼らとの出会いである。
ラスタマンは黒人音楽好きの人にはおなじみのレゲエと対に語られることが多い。ラスタファリアニズムという、英米やカリブ諸国で20世紀初頭からさかんになったアフリカ回帰運動を信奉する人びとのことである。
しかし、彼らの多くは、ムスリムの名前をもちながら昼間から酒を飲み、街中でジェンベを鳴らし、民芸品売りとして白人を追いかけ回している。彼らは「アーティスト」を自称するのだが、街の人からはいわゆるストリート・ボーイ(実際はオジサン)とみなされている。
誤解を恐れずにいえば、彼らは街の「鼻つまみ者」だ。
しかし、彼らを学ぶことでワガドゥグという街のこと、この社会のことが見えてくるのではないか、と直感した。
 

「 た か ら れ る 」か ら「 お ご ら れ る 」に 

そのようなわけで、ワガドゥグで調査をすることに決めた私は、ラスタマンのことを学んでみようと思い、一日のほとんどを彼らと過ごすようになった。私にとっての初めての人類学調査だった。毎日定時にストリートに「出勤」して、私は「骨董品」のマスクの作り方や外国人との商売のしくみを学んだ。
とはいえ、彼らと普通の友人関係がすぐにできたわけではない。この調査を始めたころは、腹が減れば食事をたかられ、どこが痛いと言っては金をせびられる日が続き、一時は外出恐怖症にもなった。
こんなやりとりを続けているうちに、たかられるだけだった関係性は、いつの日か彼らからおごってもらえるようになり、彼らの商売が成立すると、ともに祝杯をあげ、彼らが奏でるジェンベなどのアフリカ音楽を聴きながら居眠りをするようになった。そして、彼らより比較的年長でほんの少し裕福な私には、「貧乏人の友人」、「ラスタマンの父」という称号が与えられた。
 

街を理解するカギは日常のなかに

自戒の念をこめていうと、アフリカをフィールドにする研究者や援助関係者はどこかで「神の視座」からフィールドを眺めてしまう。「貧者・弱者の視線から......」と気をつけていても、である。
私たちはかならず「帰る」のであり、好むと好まないにかかわらずここにいなければならない彼らと、同じ立ち位置にはいられない。こんなジレンマに薄々気づきながら、「可能な限り、ラスタマンの目線に近いところからこの街を見上げてやろう」というのが私の試みだった。
ラスタマンの目線から都市や社会を見上げることとは、たとえば、彼らがなぜフランス語で会話をし、日本のサラリーマンよろしく、なぜ日々決まった時間にストリートに出てくるのか、などという日常生活のなかの現象を捉えることではないかと思っている。そこに見てとれるのは、いまだ影を落とす旧植民地の影響、資本主義経済の浸透、拡がりゆく格差......といった、しばしばネガティブに捉えられがちな近代化の現象である。私たちはこれらの現象を、不平等で不当な被抑圧者のリアリティだと説明してきた。
しかし、ラスタマンたちはそれに屈しているのかといえばそうではない。むしろ、こうした障害をいなし、避け、ときには利用して、日常を生き抜く術を編みだしていることがわかってきた。それどころか、彼らがラスタマンであることの日常の中に、じつに的を射た政治的主張や独自の文化が表現されていることすらみえてくる。
刻一刻と変化するワガドゥグ。こうした地べたに暮らす人の日常のなかにこそ、ワガドゥグという街を理解するカギがあるのではないかと思っている。
 
 

 
ワガドゥグ市中心部
 
 


西アフリカの「伝統的」な太鼓であるジェンベを演奏するラスタマンたち




外国人に民芸品を売るラスタマン



ワガドゥグの兄貴と
 
 




この原稿は、編集部転載許可のもと、ニュースレター「地球研ニュー スNo.45」の原稿を転載しています。

 

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