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永久凍土の融解が襲う地面の陥没と水災害―今、シベリアでおきていること―

タイトル
世界の各地域の自然と文化の紹介や環境問題に関するレポート
執筆者
大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 総合地球環境学研究所(略称:地球研)
地域
 
テーマ
自然 環境問題  
更新日
2010年07月02日

執筆者紹介

檜山哲哉(ひやまてつや)   准教授
専門は水文学。研究プロジェクト「温暖化するシベリアの自然と人-水環境をはじめとする陸域生態系変化への社会の適応-」サブリーダー。
名古屋大学地球水循環研究センター准教授を経て、2010年から現職。
 

第6回永久凍土の融解が襲う地面の陥没と水災害―今、シベリアでおきていること―

永久凍土の大地、シベリア

 シベリアと聞くと「酷寒の地」あるいは「凍てつく大地」というイメージが真っ先に思い浮かぶ。ところがシベリアであっても夏には気温が30℃以上になることもある。夏などに気温が0℃以上になることによって、地面の下の土壌は季節的に融けたり凍ったりを繰り返す。(その下には、年中凍ったままの「永久凍土」が存在している。)このように、季節的に融けたり凍ったりする(融解・凍結を繰り返す)土壌のことを「活動層(active layer)」という。
永久凍土は、いわゆる「土」であるが、一部に氷だけで構成された部分が存在する。


東シベリアや極北シベリアの湖岸・河岸にときおり見られる地下氷の露頭。
黒光りしている部分が地下氷である。

 この地下氷は氷楔(ひょうせつ:ice wedge)と呼ばれることもある。読んで字の如く楔形の氷が地面の若干下から凍土に突き刺さるように存在しているが、規模によっては楔形とはわからないほど大きな氷もある。東シベリアや極北シベリアに存在する氷楔は、最終氷期や現間氷期の寒冷期に、融解と凍結の繰り返しによって、長い時間かけて形成されたものである。
 

雪の量が、次の夏の凍土の融け具合を決める?!

 1990年代から東シベリアのカラマツ林で行ってきた我々の観測データによると、2005年以降、一年で最も深くまで達した時の活動層深さ(年最大融解深)が今まで以上に深くなってきた。年最大融解深が深くなる原因として、まずひとつは、温暖化による 0℃以上の期間の長期化が挙げられる。そして忘れてならないおおきな原因は、秋や冬に降る雪の量が多くなる(深く雪が積もる)ことである。この積雪によって断熱効果が生じ、“キンキンに”冷えた冬の気温から地面やその下の土壌が“熱的に”守られてしまう。その結果、夏に融解した活動層が、秋以降に再凍結するまでに時間がかかり、氷点下ではあっても地温がそれほど低くはならない。そうすると、翌年の春(融雪時)以降にそれほど冷えていない土壌が再び“暖まる”ことになるので、年最大融解深も深くなることになる。したがって秋から冬にかけて降る雪が多いと、翌年の夏の活動層が深くまで達するようになり、結果的に氷楔の上端部を融解させることになるのだ。
これらによって生じた微地形を下の写真に示す。

ロジュビーナと呼ばれる波状地形。
陥没している部分(凹地部分)の地下には地下氷がある。
温暖化や降雪量の増加によって地下氷の上部が融解し、このような凹地が生じる

 まるで地面が波打っている。陥没している部分(凹地部分)は現地語でロジュビーナと呼ばれ、その下には氷楔や地下氷が存在している。活動層の下端(年最大融解深)が深くなり、地下氷の上端部が融けて氷から水になった結果、地面が微妙に陥没してしまったのである。
 

温暖化によって川が増水 

 ロジュビーナは温暖化の兆候としてはまだ序の口と言って良い。場所によっては、永久凍土(厳密には地下氷)の融解はシベリア各地で様々な災害をもたらしはじめている。下の写真は、北極圏の極北シベリア・コリマ低地にあるアルガフタフの村である。村のそばにはアラゼヤ川が流れているが、1997年以降(特に2005年以降)、毎年のように夏にアラゼヤ川が増水するようになり、村人に浸水被害をもたらすようになった。この地域の地面の下は、体積にして地下氷が約8割も存在しているため、活動層が深くなると氷の融解量もかなりのものになる。特に地下氷の存在割合が多いところでは、氷の融解によって地面が陥没して水浸しになり、深さ数メートル、直径数百メートルから十キロメートル程度の「テュンプ」と呼ばれる湖が至る所に生まれる。満々と水を蓄えたテュンプに夏の大雨が加わり、湖岸が決壊して湖の水がアラゼヤ川に溢れ出した結果、川が増水したのである。この地域は地形が非常に平坦なため、一度河川が増水してもなかなか河口(北極海)に向けて流れ下ることができない。そのためいったん川が増水すると、その年の夏の間じゅう、村は水浸し状態になるのだ。
東シベリアの中央部(ヤクーツク周辺域)では数千年かけて生じるテュンプであるが、アラゼヤ川の流れる極北シベリア・コリマ低地では、近年の温暖化によってかなり急速にテュンプが生じているらしい。そのため、今後ロシア側の研究機関とともに、この地域の水収支(地下氷の融解量、湖沼水の移動量、河川流量、蒸発散量など)を正確に見積もるための観測体制を作っていく必要がある。
 

極北シベリア・コリマ低地のアラゼヤ川近傍に立地するアルガフタフの村。2007年のアラゼヤ川の増水によって村の一部がかなり浸水した。
この写真は2008年に撮影されたものであるが、一年を経ても水に浸った状態が一部で見られる

(ロシア科学アカデミー 永久凍土研究所:セミョン・ガトフツェフ氏 提供)

 

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