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檜山哲哉(ひやまてつや) 准教授
専門は水文学。研究プロジェクト「温暖化するシベリアの自然と人-水環境をはじめとする陸域生態系変化への社会の適応-」サブリーダー。
名古屋大学地球水循環研究センター准教授を経て、2010年から現職。
シベリアと聞くと「酷寒の地」あるいは「凍てつく大地」というイメージが真っ先に思い浮かぶ。ところがシベリアであっても夏には気温が30℃以上になることもある。夏などに気温が0℃以上になることによって、地面の下の土壌は季節的に融けたり凍ったりを繰り返す。(その下には、年中凍ったままの「永久凍土」が存在している。)このように、季節的に融けたり凍ったりする(融解・凍結を繰り返す)土壌のことを「活動層(active layer)」という。
永久凍土は、いわゆる「土」であるが、一部に氷だけで構成された部分が存在する。

東シベリアや極北シベリアの湖岸・河岸にときおり見られる地下氷の露頭。
黒光りしている部分が地下氷である。
1990年代から東シベリアのカラマツ林で行ってきた我々の観測データによると、2005年以降、一年で最も深くまで達した時の活動層深さ(年最大融解深)が今まで以上に深くなってきた。年最大融解深が深くなる原因として、まずひとつは、温暖化による 0℃以上の期間の長期化が挙げられる。そして忘れてならないおおきな原因は、秋や冬に降る雪の量が多くなる(深く雪が積もる)ことである。この積雪によって断熱効果が生じ、“キンキンに”冷えた冬の気温から地面やその下の土壌が“熱的に”守られてしまう。その結果、夏に融解した活動層が、秋以降に再凍結するまでに時間がかかり、氷点下ではあっても地温がそれほど低くはならない。そうすると、翌年の春(融雪時)以降にそれほど冷えていない土壌が再び“暖まる”ことになるので、年最大融解深も深くなることになる。したがって秋から冬にかけて降る雪が多いと、翌年の夏の活動層が深くまで達するようになり、結果的に氷楔の上端部を融解させることになるのだ。
これらによって生じた微地形を下の写真に示す。

ロジュビーナと呼ばれる波状地形。
陥没している部分(凹地部分)の地下には地下氷がある。
温暖化や降雪量の増加によって地下氷の上部が融解し、このような凹地が生じる
ロジュビーナは温暖化の兆候としてはまだ序の口と言って良い。場所によっては、永久凍土(厳密には地下氷)の融解はシベリア各地で様々な災害をもたらしはじめている。下の写真は、北極圏の極北シベリア・コリマ低地にあるアルガフタフの村である。村のそばにはアラゼヤ川が流れているが、1997年以降(特に2005年以降)、毎年のように夏にアラゼヤ川が増水するようになり、村人に浸水被害をもたらすようになった。この地域の地面の下は、体積にして地下氷が約8割も存在しているため、活動層が深くなると氷の融解量もかなりのものになる。特に地下氷の存在割合が多いところでは、氷の融解によって地面が陥没して水浸しになり、深さ数メートル、直径数百メートルから十キロメートル程度の「テュンプ」と呼ばれる湖が至る所に生まれる。満々と水を蓄えたテュンプに夏の大雨が加わり、湖岸が決壊して湖の水がアラゼヤ川に溢れ出した結果、川が増水したのである。この地域は地形が非常に平坦なため、一度河川が増水してもなかなか河口(北極海)に向けて流れ下ることができない。そのためいったん川が増水すると、その年の夏の間じゅう、村は水浸し状態になるのだ。
東シベリアの中央部(ヤクーツク周辺域)では数千年かけて生じるテュンプであるが、アラゼヤ川の流れる極北シベリア・コリマ低地では、近年の温暖化によってかなり急速にテュンプが生じているらしい。そのため、今後ロシア側の研究機関とともに、この地域の水収支(地下氷の融解量、湖沼水の移動量、河川流量、蒸発散量など)を正確に見積もるための観測体制を作っていく必要がある。
極北シベリア・コリマ低地のアラゼヤ川近傍に立地するアルガフタフの村。2007年のアラゼヤ川の増水によって村の一部がかなり浸水した。
この写真は2008年に撮影されたものであるが、一年を経ても水に浸った状態が一部で見られる
(ロシア科学アカデミー 永久凍土研究所:セミョン・ガトフツェフ氏 提供)
