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Vol.019誰もが幸せになる 1日3時間しか働かない国

誰もが幸せになる1日3時間しか働かない国

ラジオDJ・翻訳家
野村雅夫(のむら まさお)さん
イタリア・トリノ生まれ。滋賀県育ち。大阪大学大学院博士後期課程単位取得退学。FM802でROCK KIDS 802(月‐木:21‐24時ちょっと前)月曜日を担当。知的好奇心の輪を広げる企画集団「ドーナッツクラブ」代表を務め、小説や映画字幕の翻訳も手がける。京都に文化発信交流基地となるスペースを作るべく画策中。
書名/
誰もが幸せになる1日3時間しか働かない国
著者/
シルヴァーノ・アゴスティ

 大津で育ち、学生時代を大阪で過ごした僕にとって、京都は漠然とあこがれの対象だった。そしてその想いは、生まれ故郷イタリアでの2年間の留学という名の遊学を経て、ますます強くなった。海外暮らしのせいで「和」への揺り戻しがあったなんてことではなくて、「いざ、京都に住もう」と30歳にしてほぞを固めたのは、街のサイズが適切だと感じたからだ。ここには僕の暮らしに必要なものがすべてあって、なおかつそのどれにも徒歩や自転車でアクセスできる。実際、京都に居ついてから、あんなに大好きだった車をあっさり手放してしまった。
 見た目は洋風、中身は関西風、そして名前は純和風な僕が、故郷でありながら完全に外国だったイタリアで暮らしてみて新鮮に感じたのは、あの国には人間の身体寸法にフィットする、ちょうどいい街が多いことである。そういう場所に身を投じると、「ここは人が造った街」なんだと肌感覚で理解できる。一方で、今の日本にはどうも「資本が造った街」が多すぎはしないか。そんな感覚からすれば、周囲を自然に囲まれ、悠久の歴史に育まれた文化があり、なおかつ程よくあたらしもの好きで、むやみに肥大化していない京都がちょうどいいというわけ。
 こうした価値観形成に一役買ったのは、イタリアに住んでいた頃に出会った一冊の本だった。映画監督であり作家でもあるシルヴァーノ・アゴスティの『誰もが幸せになる 1日3時間しか働かない国』。原題は「キルギシアからの手紙」で、アジアのどこかにあるという国を偶然訪れた主人公が、先進国とはまるで違う原理に基づいた社会のあり方に驚き、その様子を見聞録として友人宛に綴った書簡で構成されるユートピア小説だ。
 読み終えるや、誰かにきっぱりとこう言いたくなった。週末を待ち焦がれ、何かにつけ追い立てられるような人生とはおさらばしたい、と。そして、もしかするとこの10通の手紙は日本のほうがより切実に必要とされているのではないかと思い、すぐ翻訳に着手し、帰国後出版とあいなった。
 口癖のように、あるいは言い訳のように、「忙しい」と繰り返すのって、ちょっと格好悪いんじゃないだろうか。自分の内なる声に耳を塞いでるんじゃないだろうか。人間らしい暮らし、創造性を発揮しながらも足るを知るようなちょうどいい社会には、きっとゆとりある時間というリソースが不可欠だ。震災後に新たな文脈で見直されているこの本。一番読むべき人は、きっと忙しくてこんな文章は読んでないだろうな…。はい、訳者である僕の「1日3時間ライフ」を保障するためにも、というのは冗談として、あなたの身の回りの現状に不満のある人や人生を無駄にしているんじゃないかといぶかっている人、さらには何かと搾り取られている人や何かと搾り取っている人、はたまた自分を愛せずにいる人や他人をいたわれない人に、この本をそっと差し出してあげてください。
 

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