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Vol.021広告は私たちに微笑みかける死体(しかばね)

広告は私たちに微笑みかける死体

株式会社ダイアログ代表取締役、選挙プランナー
松田馨さん
1980年広島県生まれ。2006年の滋賀県知事選挙において嘉田由紀子現滋賀県知事の当選をサポート。以後、地方選挙から国政選挙まで幅広く実績を積み、2008年6月に選挙コンサルティングの専門会社「株式会社ダイアログ」を設立。
20代の投票率向上を目指し活動する学生団体「ivote」への協力や、ネット選挙運動の解禁を目指す「One Voice Campaign」の発起人など、投票率向上に向けた活動も積極的に行っている。
書名/
広告は私たちに微笑みかける死体
著者/
オリビエーロ ・トスカーニ

私はいま、選挙プランナーという仕事をしていますが、もともと政治に関心があったわけでも、社会問題に関心があったわけでもありません。高校生の頃に漠然と「手に職をつけたい」と思い、色んな縁に恵まれて京都のデザイン会社に潜り込むことができました。大学は京都精華大学の環境社会学科に入学したのですが、大学選びも京都の大学ならどこでもよく、学科選びも「新設学科で何となく面白そう」という程度のもので、環境問題を学ぶつもりもありませんでした。

原稿執筆を引き受けてから、改めて自分が「エコ」に関心を持つようになったのはいつ頃だったのかを思い出してみました。真っ先に思い出したのは「エコカー」の代表格である「プリウス」です。当時の私は「排気ガスを撒き散らしておいて地球にやさしいとか、どうなの?」と思っていました。「エコ」というのは広告で使用する1つの飾りであって、「エコ◯◯」とつければ何となく「地球にやさしい」という印象を与えることができてモノが多少売れやすくなる、程度の認識でした。

我ながらなんとも捻くれた物の見方ですが、当時の私はデザインや広告の仕事に携わるなかで、あまり仕事にやりがいを感じることができていなかったように思います。それはエコに限らず、自分が携わる仕事のなかでも誇張や、虚飾とまでは言えなくても小さな嘘に塗り固められたものを目にしたり、作ったりしていたからだと思います。

そんな時に『広告は私たちに微笑みかける死体(しかばね)』という刺激的なタイトルに惹かれて、この本を読みました。オリビエーロ・トスカーニという名前はご存知なくても、黒人の乳母が白人の赤ん坊へ乳をあげている写真や、血まみれのシャツとズボン、並べられたコンドームといったインパクトのあるビジュアルの四隅に小さく「UNITED COLORS OF BENETTON」のロゴが入ったポスターを覚えておられる方もいらっしゃるかもしれません。当時ベネトンのアートディレクターとして、広告ポスターを監修してきたトスカーニが、自身の広告哲学を語った本です。

広告は「物を売るための手段」くらいにしか思っていなかった当時の私にとって、そのビジュアルもさることながら、トスカーニの思想に衝撃を受けました。人種差別や湾岸戦争、エイズ、宗教といった数々のタブーに切り込み、社会への疑問や問題提起を広告でやってのけた彼の仕事や、彼の仕事に対する世界の反響に、広告の力と可能性を感じました。

「広告は夢を見させるものであって、考えさせるものではない」

これは、故ミッテラン大統領の選挙キャンペーンを担当したジャック・セゲラの言葉です。本の最後、訳者あとがきに紹介されていました。初めてこの本を読んだ時はまったく意識しなかったのですが、今回原稿執筆のために読み直してみて、フランスの同業者のこの言葉には、深く考えさせられるものがありました。

選挙は一票でも多くの票を獲得した候補者が当選します。その一票が、郵政解散や政権交代や維新に夢を見て投じた一票でも、考えぬいて投じた一票でも同じ一票です。セゲラにとっては、夢を見させて一票を投じさせる方が簡単だったのでしょう。少なくとも私が関わっている選挙では、有権者に考えて投票してもらえるような選挙キャンペーンを意識してきたつもりですが、どうもその根っこは、この本に書かれているトスカーニの哲学にあったようです。
 

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