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Vol.023ぼくにとっての学校 ~教育という幻想~

ぼくにとっての学校 ~教育という幻想~

滋賀県立琵琶湖博物館 学芸員
金尾滋史さん
1980年広島県生まれ。滋賀県立大学環境科学部、同大学院環境科学研究科、多賀町立博物館学芸員を経て現職。専門は水族繁殖学、魚類保全生態学。主な研究テーマは水田地帯を利用する魚類の生態と保全、地域とともに歩む希少淡水魚の保全など。趣味は写真、紅茶、鉄道の旅。特技は書道。トレードマークはペンダント。地域の子ども達に囲まれながら、「学」と「芸」を両立させるカリスマ学芸員を目指して日々修行中。著書:『里山復権~能登からの発信~』(創森社,2009)、『滋賀県で大切にすべき野生生物2010年版』(サンライズ出版,2011)、(いずれも分担執筆)など。
書名/
ぼくにとっての学校 ~教育という幻想~
著者/
日髙敏隆

 ぼくは物心ついた頃からから生き物がとにかく好きだった。小学校の帰り道にテントウムシ数十匹を筆箱に詰めて持ち帰ったり、水路で変わった魚を見つけると、採れるまで家に帰らなかった。この癖は残念ながら今でも続いている。見たこともない生き物をつかまえた時は、いったいどんな名前なんだろう?ひょっとしたら新種かもしれないと、ドキドキした。。家に帰って図鑑で調べて、それがどんな名前なのか、どんなくらしをするのかがわかったときはとてもうれしかった。その延長線上が今の研究そのものでもある。ぼくの研究はそんな体験を通じて抱いた疑問や感動から生まれているといっても過言ではない。
 
 その一方でぼくは小さい頃から、体が小さく、気も弱かったので、小学校でも中学校でもいじめられっ子だった。正直、学校に行くのが嫌な日もあった。そんな中、力を発揮することができたのは理科の授業、とりわけ生物の時間だった。とにかくいろんな生き物を学校へ持って行った。中学校でも高校でも、生き物への情熱だけは人一倍もっており、高校では生物部の部長もやった。近くの川に採集に行って、いろんな魚や生き物を集めてきて、文化祭で水族館をつくったりしたことは今でもよい思い出だったし、この頃から小さい頃からの夢だった生物の研究者という道を本気で選ぶようになった。 

 その後、ぼくは行きたかった滋賀県立大学環境科学部へ進学することができた。この大学を選んだのは、タイトルの本の著者であり、動物行動学者である日高敏隆先生が学長をされていたからである。偶然だけど、日高先生の存在は小さい頃から知っていた。小学1年生の時に母親に買ってもらったカブトムシの本の著者が日高先生だったし、小学4年生の時に近所の方からもらった「ソロモンの指環」の訳者も日高先生だった。不思議と手元の本には日高先生の本が集まってきたし、その文面には不思議と惹かれるものがあった。実際に出会って聞くことのできた日高先生の話はいつ聞いてもおもしろかったし、いつでも学生を大事に、ぼく達にも気軽に話をしてくれた。
 
 そんな在学中に出版された本がこの「ぼくにとっての学校~教育という幻想~」だった。当時の大学生協にある書籍コーナーでは、日高先生の著書はサイン入りで売られているというユニークな一面があったが、わざわざぼくはサインなしの本を購入し、サインを書いてもらいに学長室へ行った。日高先生にサインしてもらったこの本は今でも宝物だ。
 
 この本は日高先生自身が主役であり、子どものころのこと、研究のこと、大学のことなどを自身の言葉で語るという今までとはちょっと違う趣向の本だった。そして読んでいくうちに驚いたこともあった。日高先生は子供のころは体が弱く、登校拒否児だったこと、当時は戦時中でさまざまな厳しい規律がある中で、親からも小学校の先生から厳しく叱責され、自殺まで考えたことがあったということ。そんな中で出会った一人の先生はいろいろと自分のやりたいことをやらせてもらえるように、親にもお願いして、昆虫の研究ができる環境を作ってくれ、それが研究のきっかけになったこと。ちょっとだけど、いじめられっ子で、学校に行きたくないと思っていた自分と似た境遇であったことを知り、偉大な先生を身近に感じることができた。
 
 この本にはその他にもいろいろと中学・高校時代の話や大学での研究の話、外国語を習得してきた話、学会の話、そして滋賀県立大学の学長になってからの話などその時を振り返りながらの日高先生らしい独特な考えが述べられている。とても真似できるようなものではないが、その中で、ひしひしと人との信頼関係、そして研究や教育、大学に対する視点や情熱が伝わってきた。今までの日高先生の本は何かテーマがあって、それについて研究事例や具体的事象が書かれた本が多かったが、この本は、日高先生の人生を通じた具体的な事象がまとめられて論となっている。難しい本のようにも感じるが、講義もフランクな日高先生の口調でまとめられている本なので、時には読んでいて笑いが出てくる。この大学で学べた嬉しさを改めて感じることができたし、この大学で育ったからこそ、誇りをもって「ぼくは滋賀県立大学の出身だ」といえる。いじめられっ子はいつの間にか、ちょっとやんちゃな博物館学芸員になったけど、今でもこの本で感じたことはぼくの学芸員生活での基盤となっている。
  
 この図書紹介を書くにあたって、久しぶりに家にある日高先生のいろいろな本も手にとってみた。そこで「なぜ?」を温め続けることの大事さ、そしてさまざまなモノの見方をあらためて天国の日髙先生から教えてもらった。今度はその意思を引き継いで、ぼく達がそれを多くの子どもたち、大人たちへ伝えていく番だ。

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